一般社団法人臨床音楽協会
代表理事 岩田 誠
musica mentis medicina moestae (音楽は悩める心の薬である)
このラテン語句が示すように、音楽という営みは、様々な悩みを抱えた人の心を癒し、意気消沈した心を勇気づけ、痛みや苦しみ、あるいは恐れを和らげることが知られています。それだけでなく、音楽を通じて、バラバラな方向を向いていた多くの人々の心を一つにまとめ上げたり、孤独な魂に対して、社会はまだ君を忘れてはいないということを告げたりすることも出来ます。それもその筈です、私達人類の祖先たちは、もう何万年も前から、音楽による祈りの行為を続けてきたのです。アルタミラ、ラスコー、あるいはショーヴェといった絵画洞窟に描かれた見事な絵の前で営まれていたのは、音楽とダンスによる“祈り”の行為であったことが、近年になり明らかになってきました。その“祈り”という営みの中から、今日の宗教、芸術、医療が分化してきたものと考えられます。宗教でも、芸術でも、医療においても、人々が求めてきたもの、それは“癒し(healing)”でした。そのような原始の時代、あるいはそれに次ぐ古代において、宗教、芸術、そして医療の現場で絶えず行われ続けてきたこと、それが音楽なのです。音楽と“癒し”の結びつきは、かくも旧いものなのです。
音楽に“癒し”の力があるのは、音楽というものは、喜怒哀楽をはじめとする脳の情動系に直接働きかけることが出来るからです。アートと呼ばれるヒトの活動の中で、意味を考えることなく、直接的に感情に訴えかけることができるという点で、音楽は特殊な位置を占めているのです。
今回、私たちは、音楽の持つ“癒し”の力を、医療の現場にもっと気軽に、もっと頻回にお届けしたいという想いから、ここに臨床音楽協会を結成いたしました。音楽演奏がお好きな医療従事者の方々に、医療現場での演奏の機会をお世話したり、プロの演奏家の方々に医療現場の実際を学んでいただいて、それぞれの方々が持っておられる“癒し”の音楽の力を、最大限に発揮して頂けるように努力していきたいと思っております。